シンプルな上野 個室
戦前の教育を受けた人が親であった時代だったからです。
親が戦前をまったく知らない、戦後の教育しか受けない親から出た子供だけになったとき、公教育は事実上やりょうがなくなったことを実感しました。
いまさらながらあなたの提案に賛成します」と話していた。
教育界で校長として責任ある立場にあった方からこの話を聞いたときには非常に嬉しく感じたが、今度もまたわれわれの提案を採用せず、このまま放っておくならば、この先十数年後にはもっと大きな後悔をすることになるのではないかと思っている。
そう考えざるを得ない話を一つ紹介しておきたい。
いまから十数年前、臨時行政調査会による国鉄民営化が進められていた。
このとき、私はふと、若い頃に読んだ丘浅次郎博士の進化論の本を思い出した。
O博士は『S』という、当時としては抜群に優れた進化論の啓蒙書を書いており、また他の論文ではDですら気づかなかったような見解を述べている。
それは、進化した動物が滅びた理由に対する一つの仮説である。
K博士が挙げているのは、恐竜はなぜ滅んだのかということと、マケロズスというナイフのような牙を持ったトラがなぜ滅びたかということであった。
K博士によれば、恐竜はその大きさからいえば当時は無敵であったが、巨大化するにつれ、その巨大さがマイナスになっていったという。
たとえば、頭の先から尻尾の先まで体長が30メートルの恐竜がいたとする。
大きさからすれば、おそらく無敵である。
ところが、恐竜はトカゲの類であるから、肉食の動物からすると食べればおいしいに違いない。
恐竜から見ればゴミも同然の、現在のトラやライオン、オオカミの先祖のような浦乳類が尻尾をかじるようなこともあっただろう。
かじられた恐竜のほうは、身体が大きいため、「痛い」と感ずるまで3秒ぐらいかかってしまう。
ようやく「痛い」と感じて見てみれば、尻尾がかじられている。
怒って尻尾を振ろうとしてもやはり何秒かかかる。
いわんや踏みつけようとして回ろうとすれば、その間に尻尾をかじったほうの動物は逃げてしまう。
これが繰り返されれば、恐竜は当然危機感を募らせる。
そこで恐竜はどうするかといえば、自分を強くした要素をさらに強くしようとする。
すなわち、恐竜を無敵にしたものは巨大化であったのだから、さらに巨大化していくことになる。
そうすると、以前にも増して他の動物から食われやすくなる。
そしてついに滅びてしまった。
恐竜が滅んだ理由に関しては様々な説があるが、こうした仮説も十分に考えられる。
恐竜だけではなく、マケロズスのトラも滅んでいる。
なぜ滅んだかというと、化石の方面の研究では、優れた牙がどんどんどんどん発達し、とうとう自分の顎まで破るようになって滅びたと考えられている。
とすると、過去においてある動物を滅ぼしたのは、じつはその動物を無敵にした要素が度を越したことだという説が成り立つ。
同じトカゲの類でも恐竜のようにならなかったトカゲは生きているし、トラでもマケロズスのように牙の大きくないトラやネコ族は生き続けている。
こうした現実を考えても、やはり圧倒的に強くなったとき、強くした要素を必要以上に強くすると逆転するということが進化論から類推できる。
このことをもとにK博士が警告していることが、ことざら注目に値する。
日露戦争で日本は、とても勝てるとは思わなかった当時の白人国の中でも最も強い国の一つである。
ナポレオンを裸にして追い返したロシアと戦って勝った。
そのときの日本人の喜び、あるいは誇りは想像に余りあるものがあるが、K博士はこれに警告を発している。
確かにロシアに勝った陸軍・海軍がいることは慶賀すべきことであるが、だからといって軍事を強くしすぎるならば、逆にそれに振り回されて国を滅ぼすことになりかねない。
という主旨のことを述べているのである。
それが日露戦争が終わってから問もない頃なのだから、驚くべき卓見といわざるを得ない。
この話を国鉄民営化のときに思い浮かべたというのは、まさに国鉄も同じだったからだ。
日本の国鉄は、岩倉使節団が訪米旅行の際に向こうの鉄道を見てショックを受け、非常に短期間で敷設したものである。
地震多発の細長い山だらけの島国の全国いたるところに鉄道を敷きつめた。
これには本当に感銘する。
しかし昭和61年代以降になると、これが明らかにマイナスに働きはじめ、努力すればするほど赤字が出る形になっていた。
結局、国鉄分割案ができ、分割民営化したわけだが、その結果、どうしようもない赤字だった国鉄がJRとなって、黒字になっている。
そればかりか、かつての国鉄のトイレといえば汚いものの代名詞のようであったが、それが今日ではホテル並みの清潔さである。
国鉄は、分割したために恐竜でなくなったのである。
恐竜ではなく、普通サイズのトカゲになったから生き延びているといってもよい。
そのアナロジーで、学校制度を考えた。
明治5年(1872)に学制発布が始まってからの日本人の学校をつくる努力、情熱、これはまさに賞賛に値する。
ところが、学校網が完成した頃になると学校にあらゆる問題が出てきた。
不良少年がバイクで廊下を走るというような、昔では想像もつかなかったことが起こる時代になった。
学校問題が取り沙汰されるようになった当時のT首相は、あまり質のよくない先生が多いためにこうなったのではないかと考えた。
おそらくT首相は、自分が受けた小学校教育に対して非常に温かな思い出があったのだろう。
事実、彼が小学校の頃は立派な先生がいて、学級崩壊などということも全然なかったのだから、そう考えたのも当然かもしれない。
そして、T首相は教育関係者の質を高めようと、給料を通常の公務員よりも2割程度高くした。
それによって、確かに優秀な人たち、すなわち学校の成績のいい人たちが多く集まるようになった。
ところが、その頃からさらに学校の荒廃が加速している。
これは、恐竜が尻尾を食われるようになり、その危機を脱するためにさらに巨大化し、さらに食われやすくなった構図とイメージが重なる。
とすれば、この状態から抜け出る道は、小さく分けること以外にはない。
それは、塾という形で分けるのがいいのではないかと考えたわけである。
この「恐竜のパラダイム」は、社会現象の多くのものに通じていると思う。
戦前の日本の海軍・陸軍も、あらゆる国力を絞って極限まで巨大化し、敗戦にいたったことはわれわれもよく知っている。
また、ソ連をはじめとする社会主義体制もこれ以上できないほどの一極集中の国家運営を行って瓦解した。
文字通り、瓦が崩れるように崩壊してしまった。
こうした現実を見ると、たとえば、社会政策もせいぜい自由主義政策の欠点を補う程度であればいいものを、限度を越して推し進めると、あるとき突如瓦解するのではないかと考えることができる。
おそらく、いまの社会保障制度なども、あるとき突如瓦解するのではないか。
これは、教育から考えたアナロジーである。
いうまでもなく、いまの教育制度のほうはすでに滅びゆく恐竜の段階に入っている。
文部省(現・文部科学省)と日教組の対立が、戦後の日本の教育を混乱させ続けてきた。
いまだに日本では偏向教育が公然と行われている。
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